ほとけの言葉 その1
「あらゆる生きものに対して暴力を加えることなく、あらゆる生きものいずれをも悩ますことなく、また子を欲することなかれ。況(いわん)や朋友をや。犀の角のようにただ独り歩め。」
(『ブッダのことば スッタニパータ』中村元訳、岩波文庫)
鎌倉には仏を祀る寺社が数多くあります。皆さんは仏様は我々を救うとか、何か問題を解決するものとしてこの世にお釈迦様(釈尊/ゴータマ・ブッダ)がもたらしたものと思っていませんか?
「仏教」というのは数多くの尊者が教典や教えを残しており、その広大な版図全体を指しますから、安易な純粋主義は避けるべきと前置きが必要ながら、ゴータマ・ブッダという人間がおおむね紀元前5世紀に残したとされる教えを歴史的かつ客観的に現在につたえるものは、『ダンマ・パダ』『スッタニパータ』のふたつであり、これを中国人が4世紀末から5世紀半ばに訳したのが『阿含経』です。
この『ダンマ・パダ』『スッタニパータ』にある数々の言葉は、現在我々が「仏教」と考えているものとはかなり違うものです。このコーナーにてたまに触れて行こうと思っていますが、人間の存在を冷徹に分析します。そしてだからこうすれば幸せになる、といった類いの言葉はみあたりません。ドイツの哲学者、フリードリッヒ・ニーチェが的を射たことをいっています。「仏教は唯一の実証主義的な宗教である」。
これら釈尊の言葉を直接伝えるものを日本語で読みたいと思ったとき、特に中村元先生の訳書はサンスクリット語やパーリ語から直接訳されており、言い尽くせぬ価値のあるものです。興味を持たれた場合には、ぜひとも中村元先生の本をおすすめします。